【翻訳】ネクストレベルのデザイン思考へ―未来に通用するデジタルプロダクトを作り上げる(Chris Weier, Demagsign.io, 2022)

demagsign.io

今日の多くのリーダーたちに教えられてきた戦略は、すでに時代遅れになっています。それは、私たちの世界が、変化し続け、不安定で、不確実で、複雑で、曖昧なもの(VUCA)になっているからです。戦略の焦点は、エンジニアリング主導からデザイン主導へ、製品中心からユーザー中心へ、マーケティング中心から人間中心へと移行する必要があるのです。今日の世界がどうなっているかを知ること以上に、明日どうなればより良くなるかを想像できなければならないのです。

ネクストレベルのデザイン思考

この課題に対する解決策は「戦略的デザイン」と呼ばれるもので、創造的な戦略思考と健全なビジネス上の意思決定のバランスをとるためのユニークなスキルとフレームワークを提供する実践です。デザイン思考とは対照的に、戦略的デザインは、ビジネスの戦略的な部分にデザイナーを配置し、伝統的なデザインの原則をシステム的な問題に適用します。戦略的デザインを企業組織の固定部分として確立することで、企業はビジネスとデザインの橋渡しをし、より包括的な顧客体験を構築することができるのです。

デザイナーは、未知の領域で活動することに慣れています。彼らは常に分析とインテリジェンスを駆使して世界を理解し、チャンスと脅威を見極め、リスクを軽減し、新たな未踏の道を切り開くのです。デザイナーは問題解決者であり、ファシリテーターであり、イノベーターなのです。顧客にとってより有意義で有用な体験を生み出すために世界をナビゲートするには、さまざまな背景、経験、知識、意見を持つ人々を巻き込む必要があります。戦略デザインは、点と点を結びつけ、人、専門知識、プロセス、構造をつなぎ、新しい革新的な考え方でビジネス戦略に取り組むことを支援します。世界で最も有名なデザイン会社の1つであるIDEOがデザイン思考に基づいた戦略コースを提供していることや、オルステッド社のようにデザインを用いてより良いプロダクトやサービスを生み出すだけでなく、文化の変化や変革を実現していることには理由があるのです。

正しい質問をすることがリーダーシップスキルの上位に位置づけられる理由

世界中の企業が、役員室にデザイナーを招き入れ始めています。近ごろ、創造性は、最も重要なリーダーシップの資質とみなされています。クリエイティブなリーダーは、より多くのリスクを取り、新しいアイデアを開発し、チームを導く方法を常に革新し続けます。もうひとつの重要なリーダーシップは、適切な質問をすることと、新しい情報を積極的に探すことです。質問と思慮深い回答は、より円滑で効果的な相互作用を促進し、共感と信頼を深め、グループを価値ある発見へと導くのです。マイケル・J・マーカート(人事・国際関係学部教授)、「Leading with Questions: How Leaders Find the Right Solutions by Knowing What to Ask("質問力でリードする:リーダーは何を聞くべきかを知ることで、いかに正しい解決策を見出すか")の著者であるマイケル・J・マーカード氏は、社員一人一人にこう問いかけました。「現在実施していないアイデアや戦略で、わが社の成功に貢献すると思うものは何でしょうか」。階層や経験年数に関係なく、チームの全員に声を届けることは、安全な空間をつくるだけではなく、未知の新しい道を発見することにもつながります。マーカート氏は、この質問に対する回答は驚くべきものだったと言います。彼のチームは、それまで誰も口にしたことのないような革新的なアイデアを思いついたのです。私たちは、クライアントとの共同創造プロセスで、同じようなことが起こっているのを目の当たりにしています。人々に創造力を発揮する力を与え、適切な質問によって彼らを導くことで、最も重要な課題を解決するユニークな可能性を見出すことができるのです。最後にチームにアイデアを求め、自信と信頼感を与えたのはいつですか?

デンマークの革新的なマインドセット

デンマークに住むドイツ人として、私はなぜ「北欧型リーダーシップ」というコンセプトが最近人気を集めているのか、なぜ世界中の人々が北欧に注目し、極度の変化と不確実性の時代にどのようにリーダーシップを発揮すればよいのか、その理由を知りたかったのです。さらに、デンマークは世界で最も革新的な国の一つですが、これは戦略的デザインに関連しているのでしょうか。すぐに気づいたのは、デンマークの企業では、現状に挑戦する明確な従業員への許可と彼らの自主性とが、言うまでもなく明白であることです。平等主義的な考え方の結果、権力は分散され、マネージャーはチームメンバーの経験や責任に期待します。デンマークでは、「わからない」と言うことが受け入れられ、誰も不快に思うことはないのです。

さらに、デンマークは最も信頼が厚い国のひとつであり、階層が低く、協力し合うという伝統があります。課題が明らかになると、デンマーク人は企業間だけでなく、企業と公的セクターの間でも対話を行い、一緒に最良の解決策を見出すのです。何年も前に、なぜコペンハーゲンイノベーションラーニングエクスペディションに最適だと確信するのかと聞かれ続けて気づいたのは、デンマークは"責任を持って破壊する"国だということです。

デンマーク人は、シリコンバレーが私たちに押し付ける技術的な決定論に屈しないのです。彼らは、自分たちのソリューションが人間や社会、そして地球に与える影響について、非常に慎重に考えているのです。 ― クリス・ヴァイアー

デザインは、デンマークが世界的に最もよく知られている分野のひとつです。この国には、ユーザーのニーズを前面に押し出し、生活の質を向上させるためのプロダクトを作る、長く強い伝統があります。2016年、デンマーク・デザイン・カウンシルは、デンマーク・デザイン・センター、デンマーク王立芸術アカデミー建築・デザイン・保存学部、デザイン博物館デンマークとともに、デンマーク・デザインDNAの10の本質的な価値を明らかにしました。その中には、「思いやり、共感、包括的」を意味する「ヒューマン」、「民主的、非階層的、信頼できる、社会運動に根ざした」という意味の「ソーシャル」、「感覚的、透明、ユーザー中心、日常の美意識に根ざした」を指す「ユーザー主導型」などが含まれています。

2019年、デンマーク政府はデータ倫理評議会を設立し、技術開発を監視し、データの利用から生じる倫理的問題や起こりうるリスクについて企業や公共団体に助言しています。いわゆるINDEX賞は、世界有数のデザイン賞のひとつで、人間性を前進させるデザインを表彰するものです。

「私たちは、最大で最も収益性の高いテック企業の成功に注目するのではなく、社会全体の進歩を信じています 」と、デンマークのデザイナー、インターネットのパイオニア、そしてデンマークで変化と革新を生み出してきた長い歴史を持つ起業家であるThomas Madsen-Mygdal氏はFast Companyに語っています。マドセン=ミグダルは、「テック業界にはもっと人間的な価値が必要だ」という信念のもとに始めた「テックフェスティバル」の仕掛け人でもあります。

責任を持って破壊する

2017年、テックフェスティバルの期間中、5.000人以上のテクノロジーリーダー、デザイナー、意思決定者が署名した、いわゆる「コペンハーゲンレター」は、今後のテクノロジーのデザインにおいて、ビジネスよりも「ユーザー」だけでなく「人間性」を優先する「ニュールネッサンス」を呼びかけるものだった。

デンマークデザインセンター(DDC)は、企業がデジタル化の成長機会を活用しながら倫理的基盤を構築するためのツール「The Digital Ethics Compass」を開発しました。DDCのプログラムディレクターであるクリスティーナ・メランダーは、「テクノロジーをコントロールするのは私たち、つまり人間であり、その逆ではないという共通の責任があります。」と強調しています。

日々、チャンスと同時にリスクも生まれていることを考えると、私たちは新しい考え方を身につけ、現在の世界がどうなっているかを知ることに自信を持つだけでなく、明日からどうすればより良いものになるかを考える必要があるでしょう。

未来はひとつではない

「私たちは、テクノロジーが社会、倫理、そして私たちの存在の核を消費していく世界に生きています。今こそ、私たちが創り出そうとしている世界に責任を持つべき時です。ビジネスよりも人間を優先させるときが来たのです。"より良い世界を作る"という空疎な美辞麗句を、真の行動へのコミットメントに置き換える時が来たのです」と、前述の「コペンハーゲン・レター」の第1パラグラフは述べています。

メタやマイクロソフトのような企業がメタバースをデザインしてくれるのを待つ必要はなく、私たちが望まない未来を実際に防ぐことができるんじゃないか、と考えたことはありますか?私たちは、質問をしたり、起こりうる未来のシナリオについて積極的に考えたりすることを得意になることだってできます。メタバースについて聞いたとき、最初に何を考えましたか?「うわー、いつになったら入居できるんだろう」?それとも「不気味」「押し付けがましい」「私が住みたいのはこんな世界じゃない」と思いましたか?

私のLinkedInネットワークの一部が突然「メタバース専門家」に変身し、マーケティングの無限の可能性を賞賛する一方で、これらのメタバースバージョンの実際の具体的な成果物を作り、これらのアイデアDDCの「デジタル倫理コンパス」にかけたらどうなるのだろう、と思いました。このような種類のシナリオを使用してもっともらしい未来を形作ることで、利害関係者が可能性のある機会に関連付け、出現する可能性のある課題と機会を特定することが容易になるのです。

デンマークデザインセンターは、2050年の健康についての4つのビジョン「Boxing Future Health」を共同制作し、物理的なインスタレーションと未来の市民による音声ナレーションによって体験することができます。4つのシナリオの1つを探索した後、ある訪問者は、その特定の未来が現実になることを想像して「ひどく落ち込んでしまった」と語っています。可能性のある未来について正しい問いを立てることで、私たちが生きたいと思う明日をつくるために、今やっていることに影響を与えることができるのです。

長期的な意思決定を行う

未来を見据えたプロダクトやサービスのデザインは、ますます短期間で市場に投入しなければならないという衝動に阻まれがちです。私たちは、「今、ここ」のためにデザインすることがほとんどです。このような短期的な思考にとらわれることなく、私たちはむしろ、どのような時間軸でモノづくりを行うかを考え直す必要があります。ハンブルクに拠点を置くキャリア向けソーシャルネットワーキングサイト「XING」では、5〜7年後にユーザーの生活をどのように改善することを目指しているかを定義する「エクスペリエンス・ビジョン」を策定しました。営業からマーケティング、プロダクトから法務、そして社員一人ひとりに至るまで、企業として顧客に提供したいエクスペリエンスについて考えています。企画・戦略的な意思決定を行い、成果にフォーカスした新しい指標を作ることで、会社の状況をより良く評価できるようになることを意図して。未来のユーザーがXINGによってどのように人生が変わったかを語るオーディオブックによって、私たちは皆を未来のプロダクト体験に没頭させ、退屈なエクセルファイルやハイレベルなOKRとは対照的に、感情的で目に見えるイメージを作り上げました。

デンマークデザインセンターのCEOであり、著名な作家であるChristian Basonがその最新の著書で述べているように、私たちはデザイン思考を越えて思考を拡大する必要があります。デザイン思考は、デザイン主導の手法やツールの価値を企業に浸透させるのに効果的であることが証明されていますが、私たちはそれをさらに推し進める必要があります。デザイナーが役員室に席を置くだけでなく、役員室を運営するようになって初めて、私たちの世界を本当に良い方向に変えるデジタルプロダクトを生み出すことができるようになるのですから。

ドットコム時代から、クリスの情熱は常に楽しくて意味のあるデジタルプロダクトとサービスを作ることでした。独学でデベロッパーとしてのキャリアをスタートさせた彼女は、やがてエクスペリエンス・デザイナーとして素晴らしいデジタル体験を生み出すことに邁進していることに気づきました。彼女は、常に学び、挑戦し続け、一日として同じ日がないような仕事をしたいと思いました。そのため、彼女は2007年に最初のデジタルエージェンシーを設立したほか、いくつかのスタートアップの共同創設者でもあり、そして、2017年にhidorrisを立ち上げました。

クリスは、デザイン会議Design Matters 22で、「デザインツールとしてのコラボレーション:Miroを使った遊び心のあるワークショップデザインの作り方」と題したワークショップを行う予定です(())。MiroのKate Syuma氏とともに、対面式ワークショップをより楽しいものにデザインする方法を紹介する予定です。オフラインのインタラクションとオンラインの要素を組み合わせたハイブリッドなセットアップで、既存のワークショップの方法を再設計する方法を紹介しながら、「プレイフル・コラボレーション」を紹介します。

カンファレンスへの参加チケットは完売しましたが、オンラインチケットとネットワーキングチケットはこちらでお求めいただけます。