【翻訳】サービスデザインの「変曲点」を探る(Corneliux, UX Planet, 2022)

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私は過去数年間、サービスデザインへの移行を目指すデザイナーや転職者のサポート、指導、コーチングにかなりの時間を費やしてきました。その中には、この分野に参入しようとしている新人から、機能レベルやプロダクトレベルの問題に取り組んでも、自分の仕事の包括的なサービスやシステムレベルの意味を理解する好奇心が満たされないことに気づいたベテランまで、様々な人が含まれます。

この分野での熟練度を評価するために、私が早い段階で質問することのひとつは、サービス/システムレベルとプロダクトレベルでデザイン手法を適用することの違いは何だと認識しているかということです。言い換えれば、サービスデザインに取り組む際のプロダクトデザインとは対照的な焦点は何でしょうか?

当然のことながら、該当する答えはたくさんありますが、私のところに頻繁にやってくる答えのひとつは、プロダクトに関しては、一度にひとつのチャネルで、一点の使用に関連するプロダクト体験に焦点を当てる傾向があるということです。一方、サービス・デザインとは、サービス体験に関わるあらゆるタッチポイント、あらゆるチャネル、社内外に至るまで、プロセスのあらゆるステップにおいて、サービスがすべてのユーザーのニーズを可能な限り効果的に満たすことを保証することです。基本的に、サービスデザインの 「ポイント 」は、サービス体験に関わるタッチポイントの目録を作成すること(またはマッピングすること)に集約され、その後、これらのタッチポイントの知覚品質に基づいて下流の意思決定が行われます。

サービスデザインに関連する今日のググって出てくる文献は、「タッチポイント」の目録を作成し、理解することを過度に強調していますが、そのマッピングのみに焦点を当てると、因果関係を導き出すことができません。サービスデザイン活動がタッチポイントのみから真のインパクトを与えるために活性化できるレバーを特定できるようになることは、高いハードルです。誤解を恐れずに言えば、タッチポイントを特定することは出発点として受け入れられますが、サービス体験全体の(サービス)変曲点を調査し、特定することは、(方向性の)変化が開始される場所であり、したがって、将来のサービスの反復において操作することができる場所であり、有意義な将来の改善を推進するために、より重大な活動です。

私がタッチポイントのマッピングやインベントリ作成に反対しているという印象を与えたくないことも指摘しておこいます。今日に至るまで、私のチームは、ジャーニーマップ、エクスペリエンスマップ、サービスカタログ、サービスブループリント、エコシステムマップなど、サービスデザインプロジェクトにおいてタッチポイントに適したマッピングの成果物に関与してきたし、現在も作成し続けています。しかし、クライアント向けのワイヤーフレームがエクスペリエンスデザインの要点ではないように、これらの成果物はサービスデザインの要点ではないのです。サービスデザインの真のインパクトは、リサーチやディスカバリー活動を通じて表面化した情報(これらのマッピング成果物とともにパッケージ化されたもの)が、サービス体験の変曲点をさらにポジティブな方向に微調整することに成功した介入モデルを決定する際に使用されるときに、下流で起こります。

では、サービスの変曲点とは何でしょうか?


これをもう少し明確にするために、変曲点の起源を見てみましょう。数学、より具体的には微積分や幾何学において、変曲点とはグラフの曲線が上り勾配から下り勾配に、あるいは下り勾配から上り勾配に変化する場所のことです。ビジネスや金融に関して言えば、変曲点とは、大きな変化によるビジネスの転換点のことです。

インテルの元CEOであるアンディ・グローブは、その著書『Only the Paranoid Survive』の中で、「戦略的変曲点」という言葉を作り出しました。これは、ビジネスが反応し、改善し、変革し、そして/または自己改革することができる具体的な事例を特定するためのもので、一般的には、現状を維持することに関連する、比較的横ばいまたは減少傾向にある成長プロファイルを、市場における継続的な関連性に関連する、より持続的なプラス成長プロファイルへと変化させることを意味します。

人間中心主義のデザイナーとして、資本主義的なビジネスモデルや慣行から着想を得たコンセプトを推進する際、私は確かに敏感です。しかし、グローブ氏がビジネスに関連する戦略的変曲点を重要視していることと、私がサービスデザイン(特にシステミックなサービスデザイン)の文脈の中でサービスの変曲点を重要視していることとは平行して考えることができます。

グローブ氏は、戦略的変曲点は様々な条件によって引き起こされると仮定しています。規制の変化、テクノロジーの変化、市場における新たな競争など、それらの同じ条件は、サービスデザインプロジェクトの実施を支配している同じ条件です。したがって、サービスの変曲点がどこに存在するのかを、今度はより人間的で持続可能なレンズを通して理解することこそが、(システミックな)サービスデザインの真の価値を生み出すものであり、今日のプロダクトデザインのアプローチにはほとんど欠けていると私は考えています。

このコンセプトに関連する、デザインにインスパイアされたもう一つの考え方は、クリス・リスドンとパトリック・クアトルバウムの著書『Orchestrating Experiences』の中で述べられています。彼らは「旅(ジャーニー)」を、感情の強さが異なる「瞬間」の連続として表現しています。このレンズを適用するならば、サービスの変曲点もまた、旅における感情的な知覚の重要なシフト(肯定的または否定的の両方)に寄与する極めて重要な「瞬間」と表現することができます。

サービスエクスペリエンスリサーチの観点からは、ほとんどの場合、サービスの変曲点は、ディスカバリー中に発見された、より重大なリサーチインサイト(リサーチ結果ではなく)に見事に対応することがわかります。私の実務では、調査結果を、確実で確固とした観察や行動の記述に基づく事実データと呼んでいます。これは研究者が観察したもので、研究メタデータをラベル、カテゴリー、役割などに定量化するのに役立ちます。これらのディスカバリーは、サービス体験の「何」を呼び出したり分類したりするのに役立ちますが、根本的な「なぜ」に簡単に導くには、単独では特に役に立ちません。

これらのディスカバリーをもとにユーザーの行動を分析することで、私たちは「インサイト」と呼ぶものを導き出すことができます。 結局のところ、行動のための貴重な機会は、私が言及しているサービスの変曲点で正確に起こることが多いのです。

簡単な実例を見てみましょう。昨年、私の会社は、公共部門のクライアントのために、サービス改善の戦略的ディスカバリーと優先順位付けを通してサービスデザインチームをリードするために雇われました。サービス近代化のイニシアチブは、世界中の発明者の代理人として活動するカナダの法律事務所のために、知的財産権の特許付与をサポートするオンラインサービスを改善しようとするものでした。調査結果を具体的に見ると、知的財産事務所に勤務する代理人によるサービス体験の質の観点から、特許取得までの道のりの中で連続する2つのタッチポイント(1.オンラインでの特許出願、2.出願状況の問い合わせ)が、それぞれ肯定的なものと否定的なものとしてマッピングされました。最初のタッチポイントでは、オンラインで(一件ずつ、または一括して)出願書類を提出できるようになる代理人の経験は、潜在的にポジティブな経験であると容易に判断されました。これは、紙の出願書類を印刷し、郵送し、スキャンし、修正するという歴史的に複雑なプロセスを大幅に技術的に改善できるためであることは間違いないのです。

一方、特許出願のステータス確認に特化したオンライン出願の問い合わせに関連する2つ目のタッチポイントは、オンラインチャネルと同じ新規性の特徴を享受しているにもかかわらず、私たちの調査ではポジティブな経験として全くタグ付けされませんでした。

調査のインタビューでは、セカンドタッチポイントの品質を直接改善することだけを深く掘り下げるか、あるいはリアルタイムで調査の軸足を変えて、セカンドタッチポイントの体験に悪影響を及ぼすような実用的なサービスの変曲点があるかどうかを見極めるかを選択しました。

この過程で、私たちは根本的なリサーチインサイトも発見しました。エージェントは、提出した内容をすぐに確認し、漏れがないことを確認し、申請が承認されることを確信したいのです。

この洞察は、2つ目のタッチポイントを改善する上で非常に有益なものでしたが、私たちは最終的に、体験がマイナスに転じる原因となったサービスの変曲点の詳細を突き止めました。結局のところ、何を提出したかを確認できることで、エージェントは申請が提出されたことを「公式」に確認できるとして、その情報をローカルに保存することができます。その保存された情報は、その後、代理人である発明家への請求書に出願証明として添付され、仕事に対する報酬を得ることができます。負の変曲点は、単に出願審査画面のスクリーンがないことではなく、即時確認番号および/または正式な出願番号、出願されたすべての書類を示すダウンロード可能な出願書類一式、支払領収書からなる包括的な出願確認パッケージが最低限ないことでした。このようなパッケージは、代理人が発明者に支払いを要求する際に必要なものという点で、代理人にとってすべてのチェックボックスをチェックすることになることが判明しました。

数カ月後、このサービス近代化イニシアチブの一環として成功裏に提供されたサービス改善の最初のバッチは、この特定のサービスの変曲点と、それに基づく対応する研究洞察に対処しました。

また、サービス変曲点(ネガティブなもの)だけでなく、サービス変曲点(ポジティブなもの)の詳細を理解することも重要です。サービス改善に関しては、ネガティブな変曲点を改善するだけでなく、ポジティブな変曲点が将来のサービス体験において維持され、できるだけ乱されないようにすることも目標とすべきです。

上記の例は、サービスレベルの例です(私がスケールデザインをどのように捉え、教えているかを簡単に知りたい方は、「デザインのスケール」に関する私の以前の投稿をご覧ください)。サービスの変曲点は、システムレベルで適用する場合、特にシステム的な行動に影響を与え、修正するために可能な介入戦略を調査・分析する場合にも関連します。タッチポイントを超え、サービスの変曲点(に限定されないのです)の周辺の状況を理解することで、より伝統的なサービスデザインのアプローチから直接導き出すには難しすぎる、望ましいサービスの改善をディスカバリーできるかもしれません。

また、サービスの変曲点があなたの特定の文脈に合わない場合は、独自の戦略を考案することを恐れないでください。サービスデザイン、特にシステミックなサービスデザインは、伝統的なデザイン思考を超えた新鮮な手法や視点を今なお必要としているのです。