【翻訳】取引的UX VS 変革的UX

訳者注:この記事中で用いられる取引的・変革的(Transactional, Transoformational)の区別は、もともとリーダーシップ論に用いられる際の文脈を踏まえたものであると思われる。参考:トランザクショナル (取引型) リーダーシップに挑戦する前に。

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UXデザイナーの役割は、ジキルとハイドのようなものだと思うのは私だけでしょうか?

ユーザーを理解し、ユーザーの真の問題を解決するインターフェースを作ることは、私たちUXデザイナーが身につけなければならない最重要な技術の一つです。そしてもうひとつ重要なのが、ビジネスリーダーや開発チーム、反対派の人たちにUXの重要性を説得することです。その結果、私の仕事の日々は、ユーザーに共感しなければならない時もあれば、自分の仕事や考え方を守らなければならない時もあり、会社の考え方に変革をもたらすために最善を尽くさなければならないという、分裂症のようなマルチタスクのぼんやりとしたものになってしまっています。

このような場面に遭遇するたびに、「そもそもなぜその企業はUXデザイナーを雇ったのか」という疑問を抱かざるを得ません。私たちの業界は、私たちを取り巻くテクノロジーと同様に急速に変化しています。多くのUXデザイナーにとっては、企業が賛同し、ユーザー向けのプロダクトを生み出すすべてのプロセスや意思決定にユーザー中心主義が浸透している様子を見ることができれば、戦いに勝利できたかのように見受けられます。しかし、私たちの多くにとっては、分裂症気味の仕事の生活はまだ終わっていないのではないでしょうか。組織の成熟度という観点で言えば、成熟度のレベルが低いせいで、すべての利害関係者がUXの価値を納得していない、と主張する記事が多くあります。しかし、私の経験では、これらの組織の中には(UXの価値に)非常に確信を持っているようなところもあり、結果が出るまでに時間がかかるとは考えていないようです。

私は最近、アラン・クーパー氏のあるコメントを見つけました。そのコメントは、企業がせっかく高いスキルを持った優秀な人材を採用したにもかかわらず、ユーザー中心設計の力を十分に発揮できていない理由を明らかにしてくれるものでした。クーパー氏はそのコメントの中で、次のように述べています。「テクノロジーの世界では、過剰なお金のために、より良いソフトウェアデザインで世界を救おうという、若くて利他的な考えを捨てざるを得なくなっています。今や彼らは、短期的に最も儲かるプロダクトを作りたいだけなのです...」。

クーパー氏は、私たちが世界に与える長期的な影響を懸念していることから、成熟したUXプロセスを重視していない一部のビジネスパーソンの近視眼的な問題だけではなく、もっと広い範囲に焦点を当ててコメントしたのだと思います。この記事では、コメントが示唆しているに後者を焦点を当てます。ビジネスリーダーたちは、「何らかのUXデザイン」を導入することが、お金を稼ぐための良い方法だと信じ込まされています。、UXの投資対効果を説くことで、ビジネスリーダーたちがメッセージを完全に間違ったものにとして受け取っていることに気づくのは、高度な専門家でなくても可能です。そしておそらく、UXに費やしたお金に対して10倍のリターンを約束することで、つまり私や仲間のUX担当者のような人を雇うことで、ビジネスリーダーは金の卵が銀行口座に直接転がり込むまでの時間を数え始めるのです。Jared Spool氏は、UXコミュニティが「ビジネスの話」ができるようになることの重要性を訴えてきました。そして彼は、投資対効果だけでなく、成熟したUX実践の成果を得るために必要な先行投資について、ビジネスにもっとうまく伝えることができるようになるために、これ(=「ビジネスの話」)を行うことを提案しています。

デザインとは、結局のところ、ビジネス目標、テクノロジー、そして人間のニーズのバランスを見つけることです。理想的には、プロダクトチームが協力してこのバランスを見つけるべきであり、UXデザイナーとしての私たちの仕事は、主にユーザーを明らかにして理解することであるはずです。しかし、ビジネス上の目標は目先の金銭的リターンに集中していることが多く、これがUX人員に二重人格を強いることになっているようです。私はかつて、非常に幻滅した同僚から、「勘違いしてはいけない。誰も利他的な目標を達成するために存在しているのではなく、ステークホルダーに価値を提供するために存在しているのだ」と言われたことがあります。なお、アラン・クーパーさんも、まさにこの結論に達したと思われますが、どうか私をお許しください...。

しかし、テクノロジー企業が、どんな手段を使ってでも短期的に最も多くのお金を稼ぐことだけに集中しているとしたら、それは一体何を意味するでしょうか?

誤解しないでいただきたいのですが、これは暴言ではありませんし、全部ではないかもしれません。しかし、現実には、ビジネスが利益を最大化するためのプロダクト設計に完全に集中しており、ユーザーへのサービスが第一かつ利益が第二となっていない場合、UXデザイナーの仕事は困難なものとなります。リサーチのための予算はなく、UXのリソースは開発チームに極端に分散され、プロジェクト上のタイムラインでは慎重にデザインを考える時間がほとんど取れません。このような環境では、ジキルとハイドが交互に登場することになります。

とはいえ、プロジェクトチームやビジネスパーソンの中には、それを理解している人もたくさんいます。プロダクトの設計においては、ユーザーのニーズがプロダクトの初期段階からすべてのイテレーション、そしてその先まで反映されるようになっています。したがって、UXの規律は2つの異なるカテゴリーに分けることができると思われます。取引的UXと変革的UXです。これはそれぞれ何を意味しているのでしょうか?

取引的 UX

これは、インターフェースデザインやユーザー中心の問題解決という日常的な作業に関わる部分です。ここでUXデザイナーは、ユーザーリサーチ、ワイヤーフレーム、インタラクションデザイン、その他多くのタスクで手を動かしています。これらのタスクは、ステークホルダーが目を見て対話できる具体的なプロダクトのコンポーネントを提供し、プロダクトチームの努力が金の卵を産むまで、次々とボックスにチェックを入れていく進捗状況を見守ることができます。つまり、すべてのUXタスクは、あなたとビジネスチームの間の取引なのです。そして、ビジネスチームがあなたのUX能力のカタログから特定のアイテムを「購入」することに興味がない場合、徹底的に検討、調査、設計されたUXのアウトプットと引き換えに、プロジェクトのお金(主に時間)を交換してもらうのは難しいでしょう。

変革的UX

簡潔に言えば、これは仕事の営業的な部分です。さらに2週間をかけてユーザーを本当に理解し、またよく理解され、実際のデータに裏付けられた問題を解決するソリューションを意図的に設計することに同意してもらうために、お金を勘定する人や時間を守る人たちの好意を得なければならない部分です。これらの取り組みは、組織の考え方を変革することを目的としています。変革をもたらすUXは、長期的なリターンをもたらし、先行投資が何年にもわたって配当につながり、組織をイノベーションマシンに変えることができます。

少なくとも、企業がUX部門の構築を決定する際には、この2つのハイレベルなカテゴリーが混同されていると思います。多くの企業は、UXデザイナーを採用する際に、取引上の必要性を前もって明確にしておらず、これがUXデザイナーの仕事を非常に難しくしています。UXデザイナーを採用する際に組織が変革の準備をしていない場合、結果としてUXデザイナーと関係者の両方がフラストレーションを感じ、最初の金の卵が届けられるまで息をひそめていることでしょう。

しかし、最小限のUX作業で満足のいく体験が得られるかどうかは疑問です。厳密に取引を目的としたUXデザインの実践で、良いユーザー体験が得られるのでしょうか?確かに、かのJacob Nielsen氏は、全体的に良い体験をもたらすことができると主張しています。結局のところ、UXに費やした1ドルは10倍のリターンになるのです。しかし、もし組織が幸運にも本当にサービスされていないニーズに偶然出くわしたのであれば、そのプロダクトは成功する可能性が高いということを付け加えておかなければなりません。

それは、私たち実務家にとってどのような意味を持つのでしょうか。まず第一に、私たちは働く組織のタイプをより選択する必要があります。私たちはリサーチを行い、私たちの取引上の価値を日々実行するために必要な努力のレベルと、組織がUXに前もって投資することを望んでいることを理解する必要があります。また、リサーチの結果、UXの成熟度が低く、変革に消極的であると指摘された場合には、それを喜んで受け入れる必要もあります。

もし私たちがすでにジキルとハイドの状況の中にいるのであれば、私たちにできる最善の方法は、マクロレベルの変革がUX成熟度の変化を誘発するまで、ミクロレベルでの組織の変革に集中することです。そのための唯一の方法は、ポジティブなフィードバックループを生み出すような仕事に、取引上の努力を集中させることです。それは退屈で、多くの忍耐を必要とします。そして、必要であれば、自分の正気を保つためにも、たまにはハイド氏に出てきてもらいましょう。ビジネスリーダーは、時に厳しい真実を聞かなければなりません。